第一章 十二月二十五日
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 革靴の底が地面を蹴る。 もう既に十五分以上走り続けていながら、その足音はいまだ軽やかである。常人が全力疾走したとしても、このスピードを出せるか否かははなはだ疑問であるというスピードにも関わらず。
 銃声が響く。彼の頭上から。
「輝さん!」
 十五という年齢よりは僅かに幼い、無邪気さを含んだ少年の声が鋭く飛んだ。
 その声にスピードを緩めることすらせず、輝と呼ばれた青年は斜め上を見上げた。両端を低い建物に囲まれた、細い裏道である。その右手にある、低いビルの上を小柄な少年が輝とスピードを合わせ、走っていた。
「後ろから、三人」
 短く用件だけを伝え、少年は輝の指示を待つ。輝は首から下げていたロザリオを少年へと放った。
「よろしくお願いしますね、華狩君」
 ロザリオを受け取った少年──華狩は、そのロザリオを見つめた。中心に埋め込まれたルビーの、血のような輝き。
「できるだけ離れて下さいね」
 にこりと微笑むと、輝は走るスピードを上げた。
「向こうで栄羅さんが待ってます」
「了解。華狩君も気をつけて」
 輝を先に進ませ、華狩は軽い跳躍一つで地面へ降り立った。
 小走りに駆けながら、脇道を探す。
 建物と建物の間が一メートル程の間隔をおいて空いている、その真横で華狩は足を止めた。そして瞳を閉じ、細く長く呼吸を繰り返す。
 そのまま脇道に逸れることもなく、ただ何かを待っていた。
 道の向こうから、輝とは異なる乱れた足音が僅かに華狩の耳に届いた。目を静かに開く。
「…殺して、いいんだな」
 艶然として笑う。他人のようだった。
 数人分の影を夜目の利く瞳が捕らえた。右手が腰のホルスターから銃を引き抜いた。
 ロザリオが華狩の手から追っ手へと放り投げられる。美しくきらめきながら弧を描いていくそれを、間断をおかず銃弾が砕いた。
 轟音が響く。脇道に身を隠した華狩は、思わず耳を塞いだ。
 轟音がとぎれるのを待ち、華狩は小さな顔を覗かせた。
「びっくりしたぁ……」
 少量でも数十人を殺せる火薬が仕込まれていたのは知っている。
 しかし一般人は巻き込まないのがルールの筈だ。
「火薬、入れすぎたのかな」
 煙がひくのを待ち、華狩は追っ手が全員ぼろぼろの肉片と化しているのを確認して溜め息をついた。


「やっと、追い詰めました、わよっ」
 息を切らせて、栄羅は目の前の相手へそう告げた。 相手も息を切らせている。
「…っ、運動、不足ですかしら…」
 汗を拭い、乱れた長い銀髪を手櫛で整え、深呼吸を繰り返す。
「栄羅さん、大丈夫ですか」
 背後から穏やかな声が響いた。彼女のパートナーである。
「輝さん…」
「一キロ以上全力疾走はさすがにきついですね」
 言葉だけという印象を拭えない。月明かりの中、彼は汗一つ流してはいなかった。
「運動不足ではありませんよ」
 輝が、栄羅と瞳を合わせた。
 仕事の、開始だ。
 輝は左手の腕時計に目を落とし、そして後ろを振り返る。
「そろそろですね」
 何がそろそろなのかと栄羅は首を傾げた。
「三、二、一…」
 小声でカウントをする輝は、僅かに楽しげだ。
 ゼロ、と輝の唇が呟くのを栄羅は見た。
 刹那、爆音が轟いた。
 追い詰められていた男ばかりではなく、栄羅ですら言葉を失う。しかし輝はもうもうと上がる煙を満足げに眺めている。栄羅は爆発が起きた地点から目を離さずに早口で尋ねた。
「あの爆発は何なんですの」
「爆弾による爆発ですけど」
 向き直ると栄羅は輝に詰め寄った。
「何で予定にない場所が爆発しますの、あの規模はなんですの!」
 きょとんとして、今度は輝が首を傾げた。その仕種は輝のどちらかといえば童顔の顔立ちによく似合い、栄羅は顔を赤らめた。
「火薬、多かったみたいですね」
 しかし反省の様子が輝にないことを知ると、栄羅は我に返った。
「あんな大爆発起こしたら下手すれば一般人も殺してしまうじゃありませんの!」
 だが、輝は栄羅の抗議に応えなかった。彼らの前に立つ、栄羅が追い詰めた男を見つめていた。正体不明の二人に追い詰められても尚、男にはどこか余裕が感じられた。
「申し訳ありませんが多忙なもので。早くこの仕事を片付けたいんです」
 腰のホルスターから引き抜いたのは、消音機能のついたドイツ製の、もっともスタンダードなワルサーPPKである。それを構える手つきから見ても、輝が一流の狙撃手であることは明白だ。
「ジャスティス──超過激派の反政府集団だと、新聞に書いてありましたよ。分かりやすくていいですね」
 輝は引きがねに指をかけた。銃を握った左手が男を怯えさせるように微かに動いた。
「本当に、忙しいんです。今夜は徹夜かな」
 輝の微笑みの質が変化を始めていた。ビスクドールのように不自然に暖かい、狂気めいたものを孕んでいた。
「輝さん」
 栄羅が寄り添うように、しかし輝の邪魔になることのない位置に立った。
 そして天使の彫像の様に完全な美しさの微笑を浮かべた。
 それだけで、男の逃亡を封じていた。
 銃を向けられた男は彼らをそれでも尚睨み付ける。 一般人には相当の効力がある筈のその目にも二人は動じない。
 何かを待っている。
「お前ら、ここがどこか分かってやってんだろうな?ここら一帯は俺たちのテリトリーだ、仲間が五万と住んでる! 死にたくねぇだろ?」
「……死にたくなかったら始めからこんなことしない」
 いまだ幼い声が、輝の背後から闇を伝った。銀の双眸が、少年の色素の薄い金の髪と美しいコントラストを作り出していた。
 栄羅の笑んだままの唇が、純粋さを増してきらめいた。
 誰何する必要もない。
「華狩さん。お待ちしてましたわ」
 素直な瞳は、前を見据えたきり動く気配がない。強く、美しい瞳。
「この仕事をしてる人間が、死に怯えるなんて許されない」
 それは、彼にとっての絶対的な真理であるようだった。他人に強制する傲慢さはない。しかし、強い何かを感じさせた。
「私たちがそんなものに怯えると思いまして? あなた方の方が、そういったものには弱いんじゃありませんの?」
 生死を持ち出しての脅迫も効果がないことを知った男は、呆然とするほかに何もできない。
「それに、私たち」
 栄羅が優雅に左手を頭上へと上げた。
「プロですのよ」
 その言葉が引き金であったように、彼女が背を向けている建物が爆発した。コンピューター制御されていたらしい爆弾は、周囲のビルを次々と破壊していく。 輝が、その光景を見つめて言った。
「ご心配なく。一般人がいないのは確認済みですよ」
 引き金にかけた指に力がこもる。
「償いを求めることは許されません。僕も、貴方もね」


「ドクターは、今日でかけてるんでしたわよね」
 帰路の途中で、栄羅が白い息を吐きながら呟いた。
 その美しい髪を後ろで一つに編み、ダッフルコートを着た姿は普通の少女と変わらない。
「珍しいですわね。本部の中で何でも揃いますのに」
 輝がふと、真面目な調子で言った。
「会いたい人が、いるんですよ」
 輝の三歩先を歩いていた栄羅が、首だけ振り向いた。
「ドクターがですか? …それとも輝さんの話ですの?」
 言い辛そうな口調は、複雑な感情の表れだった。華狩が気付かれないように笑みを漏らす。
 しかし輝は首をかしげた。
「どうして僕が出てくるんですか?」
 それは純粋な疑問のようだった。栄羅が大袈裟に溜め息をつく。
「ドクターのことですわよね、ごめんなさい。輝さんが自分のことのように言うものだから、勘違いしてしまいましたわ」
 刺のある言い方にも、輝は怒ったようなそぶりは見せない。ただ困惑して栄羅の姿を見つめている。
 華狩は乾いた笑いを漏らしていた。
「他人のことなら鋭いのになあ……」
「華狩君? どうかしました?」
「あ、いえっ。何でもないです」
 輝は、今日は二人共何かおかしいですよ、という言葉を飲み込んだ。
 栄羅の機嫌をなおさなければならない。
「ここから少し行った所に、美味しいケーキ屋さんがあるんですよ。明日一緒に行きません? 奢りますから」
 栄羅の肩がぴくりと揺れた。
「………」
 本人に自覚があるかはともかく、少なくとも輝を手玉にとっているようで実は栄羅が手玉にとられているのは、誰の目にも明らかなようだった。

 町中が、喜びに満ちあふれている。
 聖夜なのだ。
 しかし、万人に与えられた喜びというものはない。
 小さな教会の敷地内にある、狭い外国人墓地は寂然としていた。
 そんな中、隅の小さな墓標の前に長身の青年が佇んでいた。
 彼は、白い息を吐きながら空を仰いだ。
 空から落ちてくる無数の雪片が、彼の体を濡らしていく。
「……寒いな」
 その声は大人の男性のそれとも、少年の声とも異なる、不思議な音色だった。
 どこか、謎めいた容姿の青年であった。周囲より恐らく頭一つ分は高いと思われる身長、類稀な美貌。漆黒の髪と瞳は闇に完全に溶け込んでいた。
 触れれば素通りするような、霧のような、そんな印象がある。青年は膝を折り、その場に片膝をつくと冷たい石の上を撫でた。
 薄い眼鏡の奥の瞳が揺らぐ。
 向日葵の花束を、刻み込まれた名前の上に置いた。
 彼を守る静謐とした空気は動かない。風はやみ、教会の中から賛美歌のみが届く。
 彼の差し出した掌へ、雪が舞い降りる。冷えた掌の上で欠片は僅かずつ形を変え、消えていった。
 その掌を握り締め、彼は立ち上がった。
「忘れない」
 誓いの言葉のようにそれは響く。
 髪を濡らした雪の雫が一つ、彼の頬に落ちた。涙のように、それは見える。
 それを乱暴に拭い、彼はきつく目を閉じた。
 思いを紡ぐ一瞬の時。
 再び瞳を開けた青年のそれに、命は灯されていなかった。先程の青年は、闇に紛れて消え去ってしまったようだった。
「また…来年」
 眼鏡をその顔から引き抜いて、コートの襟へかける。感情を奥底に沈め、彼は歩き出した。
 長身の青年が闇に紛れ消えた刹那、僅かな風が吹いた。向日葵の花弁を飛ばさぬ程度の、少女の想いのような、儚い風。
 取り残された冷たい石は、誰かを待つように静かに佇んでいた。


 一ヶ月前から自宅となった部屋の入っている建物は、今までの華狩の生活とは全く関係のないところに建てられていた。
 国立遺伝子工学研究所『LIVE』。その名のとおり、絶滅寸前の生き物や動植物を遺伝子学的な方向から救う機関である。
 LIVEは政府本部から車で三十分ほどのところにあった。ケネディ空港の倍の広さをもつ敷地には大小あわせ百数十の建物がある。
 その広大な敷地の一角に建てられた職員寮の一室に華狩は住んでいた。
 シンプルな黒塗りのドアの前に華狩は立った。超高級マンションのような部屋に続くはずのドアを開く手が、戸惑った。
 華狩は俯いたまま、動こうとしない。背後に輝が控えている。見送りだと言うが、彼が自分の為に忙しい時間を割いてくれていることは明白だった。
 ドアの前でもう十五分以上立ち尽くしている。輝はなにも言わない。
 そうだ、と思う。
(これは僕が開けなきゃいけない扉なんだ…)
 分かっている。けれど、三年以上拒み続けて来た道は、簡単に納得できるものでもなかった。
 引き返せないんだ、と呟いて華狩はノブを回した。軋むこともなく、ドアはするりと開く。ぱたぱたとスリッパの音がこちらへ駆けてきた。
「華狩。お帰りなさい」
 華狩に良く似た女性が、華狩を笑顔で迎える。
 彼女の笑顔を見た華狩が、表情を緩めた。そして、振り返り輝へ頭を下げる。
「ありがとうございました。送ってもらっちゃって」
「いいえ」
 輝はにこりと笑うとエレベーターホールへ向かっていった。
「輝さんてそつのない対応する人ね。本当に二十代かしら」
 華狩はくすくす笑った。
「母さんには三十代に見えるの?」
「どっちかって言ったら十代に見えるわね」
 リビングでコートを脱ぐと、華狩はソファに身体を預けた。
 細い腕が、後ろから華狩を抱きしめた。
「お帰り。華狩」
「ただいま」
 華狩の母親――奏樹は、華狩を抱く腕に力をこめた。
「母さん」
「何?」
「父さんの命日、どうするの?」
 奏樹は驚いて腕を解く。
「どうするって、どういうこと?」
「…ううん、なんでもない」
 来月の二十日。華狩の生まれる前に死んでしまった華狩の父親の命日だ。
(父さんに、なんて言えばいいのかなあ…)
 答えが見つからない。


 情報管理室は、殺人的な忙しさに満ちていた。LIVEの中枢とも言うべき部署で、LIVEに届いたメールもその他の情報も、全て情報管理室を通してLIVE全体へ発信される。その上、毎年年明けに開かれる国際会議に向けての資料作成なども全て情報管理室の仕事となっている。LIVE内のほとんどの部署が情報管理室の指示がなければ動く事も適わないのだ。
 そんな中、輝はその情報管理室でも極めて多忙な立場にあった。紅牙南生と言う一般名を与えられた彼は、情報管理室の中で唯一LIVE独自のコンピュータープログラム『ANNE』を完全に扱える存在だった。その為、ハッカーの追跡、拘束、逆探知などの技術を要する行為は輝一人にゆだねられている。
 当然、それに対する報告書も輝一人の仕事になる。
「…はあ」
 特別に与えられた個室で輝は溜息をついた。
 もう三十時間近く眠ってないはずだ。時間間隔が狂っている。
 報告書は溜まりに溜まっている。細い、どちらかと言うと女のような文字が白い紙の上に連なっている。丁度一枚書き終えたところで輝はペンを机の上に置いた。
 傍らに置かれたコンピューターが警告音を発していた。
 侵入者だ。
 輝は画面を見つめる。
 プログラム通りにANNEが確認して、輝はもう一度大きな溜息をついた。また仕事が一つ増えた事になるのだ。
 輝は機械的に手を動かしながら、頭では別のことを考えていた。
 華狩は、未だに『仕事』の後に家に帰るのが怖いようだ。彼は母親との二人暮しで、母親は華狩の仕事を知っている。だからこそ、華狩も帰るのは怖いだろう。
 どうにかして負担を取り除いてやれないものかとは思うが、所詮輝は他人である。華狩自身がどうにかするしかない問題である。
 家族がいない自分には華狩の気持ちもわからない。
 輝は手を止めて、思い切り身体を伸ばした。冷め切ったコーヒーのカップに口をつける。利き腕につけられた腕時計は、既に夜明けの時刻を示していた。
 手元のファイルを見て、残りの報告書の数を確かめる。
(後三時間くらいで仕上げられるか)
「まだ仕事してましたの?」
 突然、背中越しにそんな声がかけられた。
 驚く素振りはないが、反応が遅い輝を見て声の主である栄羅は眉をひそめる。
「どうしたんですか、こんな早く。まだ五時ですよ」
「朝早く目が覚めただけですわ」
 輝は苦笑した。
「…心配ですか? 僕の事」
「今日の約束、忘れたわけじゃないですわよね」
 今日の約束? と訊きかけて輝は昨夜の約束を思い出した。
「ええ。それは勿論守りますよ」
「そうじゃないですわ! 貴方が約束を守るかどうかなんて、わざわざ心配いたしません!」
 大げさに首を横に振って、栄羅は輝に詰め寄った。長い人差し指を輝の鼻先に突きつける。
「?」
「疲れた顔した男性の隣を歩きたくはございませんの! それじゃ私が無様ですわ! もう少し待って日が昇ったらドクターに体の調子診てもらって、夜まで寝てくださいな」
 栄羅の瞳は真剣だ。輝はにこりと笑った。
「すいません。でも、大丈夫ですよ。ちゃんと仮眠はとるつもりですから」
「輝さん」
「でも、この仕事だけやらせてください。僕しか出来ない仕事ですから。…駄目ですか?」
 首を傾げて尋ねると、栄羅は顔を赤らめた。
「…仕方ないですわね」
 輝の立場と仕事を知っている栄羅には、それ以上言い募る事が出来ない。
 卑怯な手を使った気がして、輝は少し後ろめたかった。
「ありがとうございます」
 輝は机に向き直った。
「あ、コーヒーどうぞ。淹れられなくてすいませんけど」
 そう言ったきり、輝はまた仕事に没頭してしまった。栄羅は仕方なく部屋の中央に置かれた上質のソファに腰掛けた。
 一旦は家に帰って眠ったものの、どうしても輝が気になって三時ごろに起きてしまった。
 輝ほど眠らない事に強くない栄羅を、睡魔が襲う。
 何時の間にか、栄羅はソファの上で眠っていた。小さな寝息に気付いた輝が、熟睡している栄羅に気付いた。
「…すいません、ご心配おかけして」
 いつもは少女らしく流行の服を着ている栄羅が、今は部屋着のような服を着ている。
 輝は仮眠用の毛布を持ち出した。栄羅をソファの上に寝かせ、毛布をかける。その表紙に、シャツの襟の間からロザリオが零れ落ちた。埋め込まれたピジョンブラッドのルビーがちらりと光る。
 ロザリオを掌に置いて、輝は穏やかに呟いた。
「君も、僕が働きすぎだと? …祈瑠」
 小さな石は、光を集めて反射する。
「でも、こうしていないと…」
 ささやく声が、痛みを帯びている。眠っている筈の栄羅の方が微かに揺れたが、輝は気付かなかった。時が静かに流れていく。
 大時計が六時を打ち、七時を打った。
 やがて、七時半を告げる鐘が一つなった。
 それとほぼ同時に輝は手を止めた。
「よし」
 出来上がった報告書の束は、それだけでANNEの侵入者の多さを物語っていた。机の上を几帳面に整理してから輝は後ろを振り向いた。
「熟睡してますね」
 栄羅の身体を抱え上げて、輝は仮眠室のドアを開けた。栄羅をベッドに寝かせて自室へ戻った輝は、シャツのボタンを二つ外してソファに身を投げ出した。
 小さなロザリオを首から外し、輝はその掌に握りこんだ。
「…ごめん」
 普段、彼からは聞くことの適わない声が響いた。
「でも、僕は自分を痛めつけていないと不安になる」
 苦しみに満ちた声。
「祈瑠、僕のために祈ってくれている? …今でも」
 目を硬く閉じる。
「そんな必要はないのに」
 声が、震えた。
「僕はもう…」
 その先を、輝は唇だけを動かして囁いた。
 それは、祈りの仕草に似ていた。 



第一章 -2-
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