09:ふたりぼっち
 一人きりだった。
 誰もいなかったので、俯いて食べていた。皿の柄ばかり妙に鮮明に覚えている。
 寂しいとは思わなかった。寂しくないという事を、知らなかった。

 二人きりだった。
 向かい合わせに座って食事をするのが何だか辛くて、いつも俯いていたのを覚えている。
 決して彼と食事をするのが厭なのではなかった。
 ごく当たり前の事を当たり前にされて、戸惑っていたのだ。

 一人きりだった。
 一人で食事をするのは随分昔から慣れていた。ただ話し相手がいないので、やはりいつも俯いて食べていた。
 一人の食事に慣れている自分を哀れむ気持ちなど欠片もなかった。
 ただ、カレーに飽きたことを話す人がいないので、いつまで経っても別の料理が作れなかった。

 ふたりぼっちだ。
 今は、ふたりぼっちだ。
 二人きりは結局一人と一人が同じ場所にいたようなものだった。
 ふたりぼっちは、二人が同じ場所にいるのだと、久保田は思う。あの時一緒に食事をしてくれていた人との関係が、空虚だったのではない。彼は頼る事を教えてくれた。頼りたくないと思う気持ちも。もっと単純なところでは、肉親の情も。
 今の状況が特殊すぎる。
 全く別の生命体だと思うのに、同じ存在であるように感じる。
 俯かずに食事をしている。
 偶に一人で食事をすると、つまらないと思う。
 カレーに飽きたと呟いて、返る声がある。
「何か、凄いかも」
「そりゃすげぇだろうよ。五日目のカレー」
 そうじゃないんだけどなぁ。そう呟くのはやめておく。
 実際、賭けのつもりであたためてみた五日目のカレーの味も凄かったので。
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