「はい?」 「痛み止め、あります?」 「痛み止め、ですか? どこが痛むんですか」 「……さあ?」 痛むのは、骨なのか神経なのか筋肉なのか。そう言えばよく分からないなぁ、と思う。 結局薬は買わなかった。 「あーもしもし時任? 俺。今バイト終わったから、コンビニ寄って帰るわ。何か欲しいもんある?」 問えば声は普通に返ってくる。アイスがどうとか、ゲーム情報誌がどうとか。 「うん、うん。…え? ああ、そうね。分かった」 普通の声だ。普通の声だが。 底に、痛みの痕跡がある。震えて息を詰めて耐え抜くしかない数十分の記憶だ。 痛みは確実に痕を刻んで去っていく。 残念ながらその手の存在には非常に敏感なので、気付いてしまった。 久保田が誰とも知らぬ相手に何とも知らぬものを渡している間に、また、右手が痛んだのだろう。 不思議なものだ。 時任の右手にはW.Aと言う薬が関係しているように思える。 それによる痛みを久保田は別の薬で誤魔化せないかと考える。 ただ人を死に追いやるばかりの薬を見知らぬ人に渡しながら。 『久保ちゃん?』 声が、気付かれたかと警戒をしている。だから気付かぬふりをしてやる。 「ん?」 『どうしたんだよ、急に黙って』 「いや? ちょっと知り合いに似た人がいたような。気のせいかな」 『…女?』 適当にはぐらかしたつもりだったが、はぐらかす方向を少し間違えてしまった。 どうも時任は自分の過去に興味があるらしい。興味というよりも、恐怖かもしれない。 「気のせいだったみたい。どっちにしろあんま追っかけたい相手じゃないから」 『…ふうん』 明らかに機嫌を損ねた声で時任が答えてくる。 「何怒ってんの」 『別に』 「聞きたければ話すけど?」 『どうでもいい』 「そう?」 『てか久保ちゃん』 「ん?」 もうすぐコンビニだ。一体何が必要だっただろう。 ゲーム情報誌とアイスと、玄関の電球と。 『慰めんな』 どういう意味合いか。数秒黙り込まされた。 時任は意外と、卑怯なやり方を知っている。はっきり告げることのずるさを知っている。 「時任」 『何だよ』 「あんまり俺の事、傷つけないで?」 だから懇願してみたら、悪ィと一言返されて、電話は切れた。 |
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