片手で握って、長時間照準を合わせたままでいるのは結構重労働だ。 そして、当然撃たれれば痛い。 (…んじゃないかと思うんだけどなぁ) コントローラーを握っている久保田の骨ばった右手を、時任はそっと盗み見る。そこから伸びる腕は、貧弱ではないが筋肉がしっかりとついているわけでもない。要はコントローラーが似合う腕だ。 ゴッ、と派手な音がした。憎らしいほど聞き慣れた、わざとらしくも派手な悲鳴。"You lose!"と部屋に響いた。 「どしたの」 時任の使うキャラクターを容赦なく殴り倒してから、久保田はそこには全く触れずに訊いて来た。 視線に敏い。 「気付いてんなら倒すんじゃねぇ!」 「余所見してるほうが悪いんじゃない」 「久保ちゃんがショッカーなら、俺が変身してる間に絶対仕掛けてくんだろ」 「アマゾンだったら仕掛けないかも。変身のポーズが面白いから」 「…って事は9割以上の確率で仕掛けてくるんだな」 「死ぬつもりない時はね。…ていうかよく知ってたね、ショッカー」 死ぬつもりない時は。 いつものぼんやりとした口調で、彼はさらりと口にした。時任は眉根を寄せた。それが久保田にとって失言である事が分かってしまう自分が嫌だと思った。 久保田はそういう男だ。無意識に、死ぬつもりのある時の事を考えている。そして無意識に、本音を漏らすような失敗をする。時任の前では、彼も失敗するのだ。 「気に入らない?」 確かめるように訊かれた。久保田がこんな風に訊く時は、大抵時任が怒っていないかどうか知りたいと思っている時だ。時任はコントローラーに目を落とした。 「別に」 久保田には今、死ぬつもりはない。何故なら時任が生きているからだ。彼の生きる理由はそれに尽き、そこから上へも下へも動かない。久保田は時任の、自分の為に生きている。 隙を容赦なく突いて殴り飛ばした彼の手は、肌蹴た毛布をそっと掛け直してくれる。 何も躊躇わず銃を握り人を殺し、同じ手でカレーを作る。 全て自分のためだ。 「久保ちゃん」 そんな彼の生き様を寂しいとか悲しいとか思ってしまうのは、やはり卑怯で我侭だろうか。 「ん?」 「久保ちゃんが今死ぬつもり全然ないの知ってるから。…別に気に入らなくもないし、怒ってもいねぇよ」 「そう」 どうしてこんなにも優しくしてくれるのだろう、と時折思う。 結局理由は一つきりなのだと、気付き始めている。 久保田は一人になりたくないのだ。 そんな風に怯えるな、と言いたい時がある。漸く手に入れたものを手放したくない。拳銃を握る彼の手から、そんな恐怖を感じ取ることがある。 俺は死なないからと言って通る相手ならよかった。 久保田は、恐らくそんな言葉を信じない。 「つかアマゾンってどう変身すんの」 「今度ビデオ借りる?」 一瞬の静謐を破り、微温湯のような会話は再開する。 引き出しの隅に、拳銃が隠されている部屋で。 |
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