03:留守番
 初めてのお留守番。時々テレビでそんな特集組まれてたりするけど、モニター見てる親の顔がどうしてあんな風になるのか何となく分からなかった。
 でも今は分かる。確かに心配だ。
「そんじゃケース1。すみませーん、アサニチ新聞の者なんですけどォ、只今新規にご購読契約いただきますと洗剤のセットが」
「お断りします」
「はいよく出来ました。ケース2。すみません、お宅のベランダの物干し台、腐ってて危ないですよ」
「お断りします」
「オッケー。じゃラスト。ケース3。あ、誠人ぉ? あたし、ケイコ。ちょっと開けてよぉ」
「…くぼちゃんキモイ」
 そこは天下無敵の「お断りします」でしょ。
 ていうかキモイって何、キモイって。
 …いやまあ、確かにキモイけどね。

「あのな、俺だってそこまで常識欠けてねぇぞ。留守番くらいちゃんとできるっつーの」
 そう言って主張されてもどうも信じられない。
 だって猫が常識あると思わないし、普通。ていうかまだこいつの事よく知らないしなぁ。
 まともな一般家庭で育ってる訳がないから、どこでどう常識が欠けてるか分からない。
「…なんだよその目」
「いや、別に」
 まあ、警戒することは知ってるみたいだからいいか。翔太ももうすぐ帰ってくるだろうし、こいつが完全に一人なのは多分一時間かそこらだ。
 …ていうか、誰かにくっついて出てっちゃっても怒れないけど。
 なんたって猫だし。
「いつもの所に一万円入ってるから、何かあったら使いなさい。腹減ったからとかでも使っていいから」
 逃亡費にしても、ね。
「ん」
 時任は素直だ。まだ触れようとすると身を引くくせに。
「じゃ、行ってきます」
「くぼちゃん」
「ん?」
「ケイコ、追い返していいのか?」
 ケイコって誰だっけと一瞬戸惑った。
 あー、翔太と葛西さん以外の他人の名前出したの、初めてだっけ。すっごい適当に言ったんだけど、まあいいか。
「いいよ。力いっぱい追い返して」
 頷いたら時任は目を丸くした。
 テリトリーに入る他人は攻撃する。それが猫でしょ。だから猫らしくね。
「留守番頑張って」
 時任、俺が帰ってくるまでいるかな。
 ケイコがいつくるかどきどきしてたりして。
 まあ猫だから、気紛れに出てくかも知んないけど。
 …どっちでもいいや。
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